僕はいつも妹の見舞いに行っている。
今、目の前にあるこの白い扉をあけると、僕の好きな人がいるのだ。
ガチャ、ガラガラガラ。僕は扉をあける。
「あ、お兄ちゃん!」
いつも通りに妹が、病院のベッドにいた。そのベッドのそばには二つの丸い椅子と、それに座った兄貴と兄貴の彼女、洋子さん。
「やぁ、早苗。それに兄貴と洋子さんも」
僕はいつも通りに挨拶をする。そして、持ってきた花束を早苗に渡してから椅子を用意して座った。
「早苗。早く元気になれよ」
僕は心にもない事を口にする。本当は、元気になってほしくないのだ。何故なら早苗が元気になってしまえば、僕は好きな人といられる時間がほぼゼロになってしまうからだ。
「洋子さん、いつも早苗のお見舞いに来てくれてありがとうございます。兄貴も、遠いところから大変だな」
そう、僕と早苗と兄貴はそれぞれ別々の場所に住んでいるのだ。洋子さんは兄貴と一緒に暮らしている。だから、僕が会える時間なんて殆ど無い。入院しているからこそ、お見舞いという形で会える。
「いえいえ、どういたしまして。彼氏の妹さんなんだから、これくらい当たり前よ」
洋子さんは笑顔でそう言った。
彼氏の妹だからと言って毎日来ることはないと思うのだが、洋子さんは毎日来ていた。
こういうやさしさが洋子さんの良いところだ。
「……ねえ、お兄ちゃん、洋子さん。私、明日手術だね」
不意に早苗が言う。そう、早苗は明日手術をするのだ。きっと早苗は初めての手術に脅えてるのだろう。だけど、手術に脅えている理由はそれだけじゃないだろうと思う。
「そうだね。でも大丈夫、早苗なら手術乗り越えて、元気になるさ。なんたって僕と兄貴の妹だもん」
「そうだぜ、早苗。お前はまだ十六なんだ。神様も、早苗の命を奪ったりはしないさ」
僕と兄貴がそう言葉をかけ、洋子さんは黙って肯定の意味の頷きを見せる。
「……ううん」
でも、早苗は否定の意味の言葉を言い、左右に首を動かした。
「手術が成功する可能性って、十%もないんでしょう?」
早苗の言葉に、僕らは何も言うことができない。
早苗が今言ったように、早苗の手術の成功率は低い。
「だから、私はきっと死んじゃう……」
早苗の言葉に、僕はハッとした。「そんなことない、早苗の手術は絶対に成功するさ!」そう言おうとしたが、早苗の言葉がそれを遮る。
「だから、だからね……お兄ちゃんに、言いたいことがあるの」
遮られた言葉を胸にしまい、僕と兄貴は聞く。
「なんだい?」
「なんだい?」
兄弟だからだろうか、言葉が重なった。
「あ、直樹お兄ちゃんじゃなくて、雅彦お兄ちゃんの方。それと、ごめん、直樹お兄ちゃんと洋子さんは外に出てて?」
早苗は両方の兄ではなく、僕の方だけを指定して、二人に出ていくようにと促した。
「あ、俺じゃないのか。分かったよ。じゃ、廊下にいるから。洋子」
「うん」
そう言ってから、洋子さんを連れて廊下に出ていく兄貴を、僕は目で見送った。